『手』山崎ナオコーラ

文学界 2008年 12月号 [雑誌]

文学界 2008年 12月号 [雑誌]

配信会社で働く年上好きの私が、職場の上司や先輩と恋愛する話。

これは駄目だな。読んでいてイライラする。奇しくも似たような境遇の女性を主人公に据えた小説を、津村記久子が書いてきただけにこの小説の駄目さがよく分かる。

根底に男への悪意がある小説なので、男である以上批判的になっている側面もあるかもしれない。でも、津村さんもジェンダーフェミニズムが作品の下敷きになっていて、結構男にとっては耳が痛い話だったりする。しかし、彼女の場合は、徹底して自分を突き放したところで小説を書いているので、男が読んでも共感できるのだ。ナオコーラの場合は、その辺が不徹底で作者の自意識が微妙に残ってしまっているので、読んでいてどうも嫌悪感を覚えてしまう。たとえば、主人公の女の読んでる本のチョイスが金子光晴だったりするところは脇が甘いと思う。意図がよく分からない。たぶん、この作品では男を批判すると同時に、そんな男になびいてしまうこの女の浅はかさ、馬鹿さも暗に描いていると思うのだが、それだったらもっとベタな本(村上春樹とか)でよかったんじゃない。いいがかりにもほどがあるけど、なんか金子光晴読んでそうな感じじゃないのだ、主人公(恋の空騒ぎに出てきそうなタイプ)。『ミュージック・ブレス・ユー』で主人公のアザミの聞いている音楽は、作者の好きな曲ではなくあくまでアザミの聞いていそうな曲をチョイスしたと津村記久子が対談か何かで言っているのを読んだけど、ナオコーラはそういう細かい配慮に全体として欠けていて、小説を背伸びして書いているような印象をどうしても受けてしまう。