『女の庭』鹿島田真希
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/07/07
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候補者の中でも実力は抜きんでているだけに、読む前は、今回は鹿島田女史で決まりと思っていたものの、読んだ後の気分はう〜んって感じ。これで取るのは残念な気がする。
もしこれが評価されるとしたら、主婦の心の闇をリアルに描き出したってことになるだろうし、そういう方向で社会に紹介されるんだろうけど、彼女の狙いはそこにはない。
だって、彼女は執筆と読書、あと家族のこととか協会のこととかで日々充実しているはずで、この作品に出てくるいかにも頭の悪い俗の塊のような主婦たちとは正反対の立場にいるとしか思えない。
むしろこれは津村記久子とは逆に悪意丸出し、上から目線全開で女という愚者を徹底的に突き放して寓話的に描いた作品だと思う。彼女流のユーモアみたいなものかもしれないけど、誤解されかねないのでまたほかの作品で取って欲しい。
『ポトスライムの舟』津村記久子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/07
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この人はやっぱり心理描写が抜群にうまいなぁ。女同士、大学の同級生4人で集まったときの微妙な距離感がリアルで痛々しい。一人勝ち組専業主婦そよ乃が、あからさまにヒールのポジションなのもおもしろい。さばさばした書き方なのにさりげなく見える女の悪意。いいと思います。
特に不満な点もなくて、生活を維持するために働くと考えざるを得ない現代の息苦しさもよく出せているし、これで賞取るかもしれない。タイムリーだし。もっと結婚に夢見させてくれてもいいんじゃないとは思うけれど。
『新世界より』貴志祐介
- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/01/24
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- 作者: 貴志祐介
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『イムリ』+『ヴィレッジ』な感じの近未来SF大作。おもしろかった。
読むのに躊躇するぐらいの分量があるもののリーダビリティーが半端ないのでさほど長さを感じなかった。同姓間の性的関係が奨励されていたり、情報をつかさどる図書館が村の中枢機関として権力を持っていたりというユニークな擬似社会の想像力。私たちの世界にはいない未知の生物の造形や性質へのこだわり。そうしたディティールがしっかりしているので独自の世界観が圧倒的な説得力を持って伝わってくる。そして、単純なエンタメに終わらず、独特の仮想社会を通して現代社会に対する風刺を利かせているのもおもしろい。独善的な人間の姿を露わにするラストシーンはちょっとどきっとしました。
『風に舞い上がるビニールシート』森絵都
- 作者: 森絵都
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6つの短編が収録されているのだけど、どれも構成がしっかりしすぎるほどしっかりなので出来のいい三題噺を読んでいるような気分でした。減点法に近い選考の直木賞を取ったのも頷ける。ただ、これが初森絵都の自分には、ちょっと作者の色が器用さにかすんで見えてこなかった。何でも書けることと何にも書けないことはもしかしたら結構似ているのかもしれない。僕は、下手でも乱暴でもいいから、作者自身が伝わってくる作品のほうが好みなのでこれはあんまり用のない小説。
『風の邦、星の渚【レーズフェント興亡記】』小川一水
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
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今回のテーマは町づくり。父親に疎まれ、辺境の地モール庄に追いやられた騎士ルドガーと弟リュシアン。しかし、モール庄は北海が注ぎこむエギナ川に面し、貿易、交通の要所としての地の利があった。これに目をつけたルドガーは悠久のときを生きる謎の生物レーズの力を借りながら自らの理想とする町づくりを行なっていく。
歴史ものは新境地ながら、ベースにあるのは一水得意の膨大な資料の読み込みに裏打ちされたシミュレーション。町が少しずつ発展して次第に影響力を持っていく過程はなかなか読ませます。そこに恋やら男のプライドやらを絡めて物語に厚みを持たせるのが抜群にうまいのよね。一水。職人の域といっていいと思います。
ただ、二段組で400Pに達するかという分量の長編ながら、人口何千人の町のお話なので意外とスケール自体は小さい。ラスト付近も紙数が足りず駆け足気味。次は腰を据えてそろそろ乾坤一擲、国レベルの大長編大群像劇を描いてほしいところ。