『屍鬼』小野不由美
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綿密な下調べと練りこまれたプロット、卓抜した文章力、そして閉鎖された日本独特の村社会と得体の知れない恐怖という組み合わせの妙味が相俟って全体の長さに恥じない完成度を誇っている。確かに長すぎるきらいもあるが、亀裂から水が浸食してくるように徐々に恐怖感を募らせていくという思惑を成功させるためには、この長さも致し方なかったと思う。途中で、恐怖の正体がはっきりするので、作品の肝である見えないゆえの恐怖は機能しなくなるのだけど、小野さんは主要キャラでも平気で殺すので、緊張感は常に保たれている。そして、内から見る外の世界に対する憧憬、集団心理に突き動かされる人間の姿や善悪とは何か?といったホラー小説の枠を超えたテーマを兼ねているところもこの作品の魅力である。
この物語には150人を数える人びとが登場するのだけど、神の視点から見ている読者とは違い、彼らはそれぞれ場面、場面によって認識レベルが異なる。つまり、Aがその時点で知っていることもBが知っているという保証はない。10人程度ならいざ知らず、150人レベルでその認識の差をうまく書き、物語として整合性を保つというのは神業である。これほどの長編を物にした小野さんの才能にはただただ驚かされます。