『イッツ・オンリー・トーク』絲山秋子

イッツ・オンリー・トーク

イッツ・オンリー・トーク

文学界新人賞を取ったデビュー作を含め、2編収録。

デビュー作ということもあって、気負った表現が見られたり、登場人物も過剰にあくが強かったりする。拳銃を所持するうつ病のヤクザなんて、今の絲山さんなら絶対出してこないだろう。そういう分かりやすい表象に頼らずに書けるところが、今の彼女のいいところなので。ただ、作品としては荒削りゆえに胸に直に迫ってくるものがあった。絲山さんって中島らもさんに通じるものがある。ともに躁うつ病を経験しているという分かりやすい共通点だけではなくて、もっと本質的に似ている。誰よりもやさしくて誰よりも哀しい。二人ともとことん心が無防備な人間だ。そのように、彼らは一般社会でまっとうに暮らしていくのに困難を強いる非社会的で非生産的な感性を抱えながらも、それゆえに世界を肯定しうる負の包容力を持つ。それは危険な魅力だ。その手の磁力に引き寄せられてしまう僕もまた健全な人間にはきっとなれない。