『優雅で感傷的な日本野球』高橋源一郎

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

第1回三島由紀夫賞受賞作。

野球に関する七つの短編からなる小説。

ただ決してスポーツものの小説ではない。ここで言う『野球』とはもはや本来のピッチャーが投げた球をバッターが打ち返すスポーツとしての意味を消失し、言葉だけが一人歩きしている。記号としての言葉と意味の乖離。そして、この小説において『野球』という単語は単なるスポーツの概念を越えて、哲学的な趣を帯びてくるに至る。もはや『野球』にはバットもボールも必要なく、日常生活のそこかしこに『野球』を見出すことが出来る。記号としての言葉とそれが表すものの間には絶対的な因果関係は存在しない。僕たちが『野球』と呼んでいるものは『サッカー』や『洗濯機』であったとしてもなんら不思議は無い。そんなかんじの記号論や言語論のようなものを小説という形で体現しようとしたものが、『優雅で感傷的な日本野球』なんだと思う。


この小説は難しい。一見かなり深い意味を秘めているように思えるし、何の意味も持たないようにも思える。ようするに良く分からない。上で述べたことも癌患者を風邪と診断するようなものかもしれない。唯一ついえることは、私はこの小説がかなり好きだということだ。深く考えず、よく分からないけどなんとなく面白いと感じるのが、この小説の正しい読み方なのかもしれない。