『沖で待つ』絲山秋子

沖で待つ

沖で待つ

第134回芥川賞受賞作。

主人公のキャリアウーマンである及川と死んでしまった同期太っちゃんの関係を軸に物語は進む。主人公が会社員の小説は数多くあるが、その会社における労働自体を小説の前面に押し出してくる文学作品(プロレタリア文学でも無い限り)は割りと稀有である。そして、さらに恋愛でもなく、親友とも少し違う『同期』という特殊な関係性がテーマになっているのも珍しい。文学になじみの薄い題材をきちんと文学に昇華した手腕は芥川賞には相応しかったと思う。

同時収録の『勤労感謝の日』。社会的な不安に対して、文学的なスタンスの取り方としては、まず太宰のような絶望を感じるか、もしくは村上春樹のように無関心を決め込むか大きく分けて二通りある。この短編の主人公のそのどちらにも当てはまらない。とにかく納得のいかないことに対してツッコミを入れていくその憤怒ともいえる新しいスタイル。線の細い女流作家が多い中、この人の図太さ、たくましさは貴重だ。