『氷菓』米澤穂信
- 作者: 米澤穂信,上杉久代,清水厚
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2001/10/28
- メディア: 文庫
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さて、肝心の『氷菓』の話。米澤さんはまさに日常の謎の落とし穴に嵌ってしまっている気がする。とりわけ文章が下手なわけでもないし、全体的な構成も悪くない。若き作家のデビュー作にしては上出来だと思う。ただ悲しいかな致命的に地味なのだ。その道の偉大な先輩北村薫は、女子大生と落語家という意外な組み合わせとキャラクターの魅力で日常の謎の欠点を克服した。また文章の節々から作者の読書愛が滲み出ていて、そこも世の多くの読書家の心の琴線に触れることとなった。一方、『氷菓』では、各人物を掘り下げきれておらず、主人公の奉太郎がすかした薄っぺらい男にしか見えない。ヒロインの千反田えるもベタな天然お嬢様キャラである。古典部のメンバーがみんなどこかで見たような没個性的なキャラクターばかりになってしまっている。もう少し心理描写や背景を丁寧に書いて、キャラクターの独自性を築けていたら(伊坂幸太郎はこの点秀でている)この作品の世間的な評価もだいぶ違っていたかなと思う。