『対岸の彼女』角田光代

対岸の彼女

対岸の彼女

第132回直木賞受賞作。

表層的な人間関係のぬるま湯につかっているような居心地の悪さが恐ろしくリアルに描写されていて胸が痛んだ。さすが女流作家なかなかやりおる。

話を聞いているうち、木原の態度に一定の法則があることに小夜子は気付いた。岩淵さんや関根美佐緒が葵をけなすと、彼は必ず葵を持ち上げるようなことを言う。すると二人は躍起になって悪口を言い合う。プライベートな部分に及ぶ葵個人への揶揄など、洒落にならないくらい会話がヒートアップしてくると、わかるわかるとうなずきながら話を元に戻し、彼女たちに仕事の不満を吐き出させる。意識してそうしているのか、それとも彼も気づかずにそうしているのかはわからないが、相手に自己嫌悪や内省をさせず胸のうちを暴露させる特技が、どうやら木原には備わっているように小夜子には思えた。

この人間の醜さをまざまざと見せ付けられる描写。すごいです。こういう人っていますよね。絲山秋子とは逆の意味で人と人との間が的確に描けていて、読み手にその嫌〜な感じが迫真の説得力を持って伝わってくる。そこがきちんと書けているからこそ、葵とナナコの絆が強調されるし、ラストシーンも活きてくる。直木賞に恥じない完成度だと思う。

しかし、角田さんが夫の無理解に苦しむ主婦を描いて直木賞を取り、角田さんの夫である伊藤たかみさんが妻を理解できない夫を描いて芥川賞と冷静に考えるとすごい夫婦だよなー。