『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

製鉄で財を成した名家赤朽葉家に生きる三代の女性を描いた桜庭一樹版『百年の孤独』。

ガルシアマルケスの『百年の孤独』を意識しているのは明らかで、冒頭の一行目に壮大な伏線を張る構成なんてそのまんまで読んでてにやりとさせられた。『百年の孤独』は同業者に対しての影響力の強い作品だから、こういうのいつか書いてみたいってのは作家であれば誰しもあると思うんだけど、思うのと実際やるのではだいぶ違う。マルケス自身も構想から執筆に至るまでに20年の歳月を要している。桜庭さんが自らにゴーサインを出してこれを書いたということは、文筆業でやっていけるという自身の表れ、もしくは作家としての決意表明なんだろうなぁと思う。

語るべき新しい物語はなにもない。本編の語り手であり、現代を生きる三代目の女性瞳子は第三部の始めにこう語る。確かに第三部はその前までの饒舌さを失い、スケールダウンしている。これはそのまま現代の作家を取り巻く状況と通底している。瞳子はさらに問いかける。これからの時代において、わたしたちの自由とはいったいなんだろう。語るべき物語に満ちていた幸福な時代は終わりを告げ、羅針盤を見失った私達は暗中模索の途上にいる。瞳子の問いかけはそのまま桜庭一樹自身の自問自答でもあるのかもしれない。

舞城王太郎阿部和重森見登美彦吉田修一田中慎弥そして桜庭一樹。生まれも歳も歩んできた人生も異なるのに、現代作家たちが時を同じくして地方に目を向け、そこで暮らす人々(特に家族)を土地と絡めて描き始めたのは興味深い。彼らも赤朽葉家の一族のように、目に見えない時代の流れに知らず知らず翻弄されている。