『犬はどこだ』米澤穂信

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

ストレス性皮膚炎で銀行をやめた紺屋は犬探し専門の調査事務所を開く。その名も<紺屋S&R>。しかし、開業早々舞い込んだ仕事は、犬探しとは無縁の失踪人探しと古文書の解読。紺屋は事務所に押しかけてきた高校の後輩ハンペーとともにしぶしぶ調査に乗り出すが…。ミステリー界の新鋭米澤穂信の放つ異色探偵小説。

これ伊坂幸太郎の新作といわれても信じてしまいそうなくらい文体や構成がどことなく伊坂チックです。ただ、紺屋のキャラ設定に米澤穂信の独自性が出ていて、非常におもしろかった。世の探偵のイメージというのは紺屋の後輩にして同僚のハンペーの思い描くとおり、『トレンチコート、ドライマティーニリボルバー』に代表される渋くてカッコいい存在。ただ、この作品の主人公の探偵紺屋はこれらのイメージに全く該当していない。仕事にそんなに乗り気ではないし、そもそも探偵業は次の仕事が見つかるまでの一時的な腰掛のつもりなのである。極力無理はしないし、臆病者でもある。つまり、従来のヒーローとしての探偵ではなく、小市民としての探偵なのだ。そして、彼の小市民性はハッピーエンドとは言いづらい何ともいえないオチに収斂していく。この作品の正体は、探偵小説のようでいて実はアンチ探偵小説なのである。

伊坂幸太郎がオシャレな銀行強盗やスタイリッシュな泥棒、豪放磊落な家裁調査官など小説の中で理想を追い求めてきたのに対し、米澤穂信は現実主義に立脚して小説を書く。この二人似ているようでいてスタンスは正反対なのがおもしろい。