『半落ち』横山秀夫

半落ちとは警察用語で「一部自供した」という意味。つまり、一部不明な点があり完全に自白を取れていないということ。妻を殺して出頭した現職の警察官梶聡一郎が語らない犯行から出頭に至るまでの謎の二日間。二日の間に彼は何をしていたのか。警察、検事、裁判官、記者、弁護士、刑務官。彼に関わる六人の目から真相に迫っていく。

無駄を排して事実を淡々と伝える硬質な文章がまず目を惹く。恐らく作者が新聞社時代に培った文体なのだろう。ダイレクトに文意が伝わってくるからとても読みやすかった。そして、出てくる働くおっさん達の枯れっぷりが何ともいえない。働くとはこういうことだといわんばかりの仕事の重圧、そして孤独。書こうと思ってもなかなかこの重みは出てこない。決して平坦な道を歩んできたわけではない苦労人の作者の人生経験の賜物だと思う。

さて、半落ちといえば、横山秀夫直木賞と決別するまでに至った問題のラストシーンである。あくまで小説とは虚構であるから、現実の制度との矛盾がどうのこうのというのはことさらに取り上げて叩くというのもどうかという気はする。およそ実現不可能なトリックが氾濫しているミステリー界においてはなおさらだと思う。ただ、現実との瑕疵云々は措いといて、あのラストは安易過ぎるかな。わざわざ大勢の人に迷惑をかけてまで黙秘するには弱いと思うし、衝撃でもなんでもなくて容疑者のイメージ通りのオチだった。むしろ歌舞伎町へ行って女に会ってたという真相のほうがインパクトがあったと思うのだけど、それだと違う小説になっちゃうしなぁ。だから、じゃあ、どうすれば良かったのかと聞かれると困ってしまう。もうちょっとひねりが欲しかった。