『アルカロイド・ラヴァーズ』星野智幸

アルカロイド・ラヴァーズ

アルカロイド・ラヴァーズ

楽園、失楽園、復楽園。この一連の物語の流れは、キリスト教文学を踏まえたものであるのは明らかだが、ミルトンを読んだことがない無学な私はおぼろげにしか星野智幸の意図を理解できない。ただ、思ったのはこの人、非常に両性的な感性の持ち主だということ。中性的なのではなくてあくまで両性的。女性的な視野で物事を捉える描写がよく目に付く。子供を作ることに対する潜在的な忌避の感情などはまさに女性にしか書けないもののひとつであるのに、星野智幸は敏感に知覚している。

彼の作品はどこかいかがわしい感じがして、苦手だと言う人の気持ちがよくわかる。いかがわしいといえば阿部和重の作品も負けていないが、阿部和重のほうは乾いたいかがわしさなのでわりかし抵抗感なく読めるのに比べ、星野智幸のほうはねっとりとしたところがあってどうも嫌悪感がある。個人的な好き嫌いを抜きにしたら、この人の作品レベルは非常に高いステージにあるので他のもまた読むことになるだろう。