『薬指の標本』小川洋子
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (13件) を見る
その点でみれば、この作品はその試みが高次元で達成されている。標本製作という仕事のミステリアスさと標本師と主人公のわたししかいない密室空間。この設定が功を奏し、小川洋子の感性とぴったりマッチして静謐で透明感がありどこか喪失感の漂う世界観が読み手にダイレクトに伝わってくる。
考えるんじゃない、感じるんだといった趣の作品から、今の小川洋子はその感性を下敷きにしながら次第に物語の創造のほうへシフトしつつある。『薬指の標本』は己の感性に依存し、物語性を獲得する前の彼女のひとつの到達点と捉えることができるだろう。