『インシテミル』米澤穂信

インシテミル

インシテミル

米澤さんにしては珍しく日常の謎ではなく、クローズドサークルもの。人もバンバン死にます。けれど、ただのクローズドサークルものではありません。法外な時給の短期バイトで集められた参加者たちが、実験の名の下に密室空間でクローズドサークルを演じるなんとも凝った設定。バトルロワイヤル?SAW?エス?ちょっとそれらの先行作品を思い出しました。

作品全体を通して先人たちの築き上げてきたミステリーの歴史を敬意をもって踏まえたうえで、新しい時代のミステリーを開拓していこうという熱い気概が感じられた。互いを信用できずに疑心暗鬼になっていくところとか凶器やアリバイのあれこれとか密室の旨みが存分に抽出されていて、飽きさせないつくりになっている。米澤さんはやっぱり心理描写が巧いのが武器だなぁ。密室によって限られたヒントの中からパズルを解いていくおもしろさではなくて、人々のそれぞれの思惑が入り乱れた心理戦を楽しめるのが大きい。僕はミステリーを敬遠してしまう人間で、それはきっとパズルの側面には魅力を感じていないからだと思う。その点、米澤さんのミステリーは人の部分を楽しめるので僕のようなミステリ嫌いも入り込むことができる。ミステリーに苦手意識のある人はぜひこれを読んでほしい。