『グ、ア、ム』本谷有希子

グ、ア、ム

グ、ア、ム

母親と娘姉妹の女三人でグアムにバカンスに行くお話。タイトルと表紙が微妙だったので、あんまり期待してなかったんですが、思いのほか良かった。

両親と娘たち、姉と妹、妹と彼氏。作中に出てくる人々はみんな互いにいまいちコミュニケーションが取れていなくて、話が噛み合わなかったり、衝突して言い争ったりする。ギクシャクしてて不安定極まりないのに、不安定の状態で安定してしまっているところに底知れぬ愛を感じた。ベタベタで和気藹々としている関係よりもこういう腐れ縁っぽいほうが情が濃い気がしません?父親とか娘につっけんどんな対応をされて相手にされてない感じなのに、互いに心の深いところでは繋がっているのが伝わってきて、これが理想の父娘関係なのではないかと思ってしまった。本谷有希子は見えない感情を言外に含ませるのが抜群にうまいなー。それと、相変わらず律儀なほどストーリーの構成がきっちりしている。今どき、ここまで起承転結の起伏をしっかり作る作家も珍しいんじゃないだろうか。転に当たるのが姉妹の大喧嘩の場面だけど、そこに至るまでの起承の部分で姉妹の背景や積み重なる鬱屈を丁寧に描いているから転でのカタルシスが大きく感じられる。僕は姉の啖呵と妹のけなげさに不覚にもぐっときてしまった。そして、締めくくりは、不思議な希望の仄見えるコミカルなラストシーンで、これが綺麗に決まりすぎていてにやりとさせられる。うん、完璧。これ、もう少し評価されてもよかったのに。