『ABC戦争』阿部和重

ABC戦争―plus 2 stories (新潮文庫)

ABC戦争―plus 2 stories (新潮文庫)

片田舎の通学列車内で起きた高校生たちの抗争。その顛末が帰省中の「わたし」の口から語られる。ところが、問題がひとつ。当時すでに故郷を離れていた語り部のわたしは、事件にはまったく関与していなかったのだ。そこで、彼は事件の当事者である彼の仲間たちの証言や彼らのひとりが残した手記を元に戦争の全貌を明らかにしようとする。しかし、当事者たちは忘れたといって多くを語ろうとせず、手記も核心には触れずじまい。なので必然的に不明な箇所が発生し、本来は物語を曖昧さが帯びていくはずである。しかし、阿部和重はそれを許さない。強引な論理と決め付けで曖昧さを排除していく。

片側には保坂和志村上春樹のような世界の実相である曖昧さをそのまま抽出しようとする小説の試みがある。その一方、ほんとは白も黒もない、混ざり合った灰色しかない世界を白だ、黒だと断定するのもまた小説に課せられた重要な役割だ。阿部和重は比喩表現を用いない作家である。それもまた曖昧さを排除し、小説をクリアにしていこうとする彼の姿勢を端的に表している。そして、『ABC戦争』はそんな彼流の一風変わった小説論なのかなとうがった見方をしてみる。

同時収録の「公爵夫人邸の午後のパーティー」、「ヴェロニカ・ハートの幻影」も斬新な企みの見られる作品で、このころの阿部和重はちょっとすごい。