『ニッポニアニッポン』阿部和重

ニッポニアニッポン (新潮文庫)

ニッポニアニッポン (新潮文庫)

僕の稚拙な読み方だと阿部版『金閣寺』だと思ったけど、あとがきで斉藤環が言っているように阿部和重はいくつも周到に仕掛けを施しているのでなかなか油断ができない。ただ、やはりひきこもりやインターネット、ストーカーなどのキーワードが出てくるからといって現代社会の闇を描いた社会派小説と短絡的に決め付けるのは誤りだろう。主人公の少年がどう考えても間違っているのに、その行動にいたる理論はやけに整然として説得力のあるあたりはなんとも皮肉が利いていて(北一輝の生家が出てくるのも意味ありげ)、全体が何かのメタファーのようなもっと概念的な小説な気がした。阿部和重の作品にしては、普通に筋が追えるのだけど、だからこそ額面どおりには受け取れない阿部和重の得体の知れなさが存分に発揮されている。