『不正な処理』吉原清隆

すばる 2008年 12月号 [雑誌]

すばる 2008年 12月号 [雑誌]

人との繋がりを極力避ける少年だった誠は、趣味のパソコンをきっかけに、同級生の久賀と親しくなる。しかし、二人の関係はある日を境にピリオドが打たれることに。その後、大人になった誠の人生は、思わぬことでどん底へと突き進んでいくのだが、実はそこに誠と久賀のかつての繋がりが関係していることを彼は知ることになる。

文体に血が通っていないというか、作者の意思が希薄な独特な文体で綴られている。そのせいで、主人公がどうも薄気味悪くて気持ちが悪いんだけど、変にリアリティーがある。僕が、これまでの人生ヒエラルキーの中心の側にいなかったのも関係していると思うのだが、分かりたくないのに、結構理解できてしてしまう。学校の空気とか誠の抱く人生観とか。もちろんなんでそうなるか理解できないところも多くて(イヌ探しが何のメタファーなのかも正直分からない。オチの意味も分からない)、心理描写や展開はあまりうまくないと思う。でも、ところどころの迫力、説得力はすごい。全体を通して現実味に乏しいのに、作品を覆う空気にはリアリティーがあるというなんだか得体の知れない作品だった。