『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』柴崎友香

次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)

次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)

2作を収録。

表題作「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」は、若者四人で大阪から東京までドライブをするお話。主人公の望が、才能はあるのに飽きっぽく、おまけに自分勝手というおよそ共感を得にくい(特に男性に)キャラクターで、読むのに苦労するかと思ったけど案外すんなり読めた。島本理生の『ナラタージュ』を読んだときは、そのあまりに潔癖症の男性観にうぇーってなっちゃったけど、この人は割りと男の醜いとこというか馬鹿なとこをありのままに肯定しているところがあるので好感が持てました。

「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」は、失恋をきっかけに眠り癖のついてしまった女の子のお話。僕はこの女の子をあずまんが大王の大阪に置き換えて読んでました。「眠らない」と抱負を立てても、その抱負を立てたことに満足して、なんだかんだ言い訳して寝ちゃったりするシーンは、自分を見ているようで身につまされてしまった。この話には主要な登場人物として主人公のわたしとその片思いの相手花田くん、わたしと同じ研究室に所属するかおるちゃんの三人が出てくる。僕が思うに、作者の柴崎さんは、立ち位置にはかおるちゃんなんだと思う。ダメダメな主人公を影から優しく見守る。現実を無視して自分のやりたいことに邁進する花田くんに対しても必ずしも否定的には描いていない。

2作とも主人公=作者ではない。どこかに弱さを抱えていたり、青春らしい葛藤を行なっている登場人物たちを作者が上から微笑んで見下ろしているイメージ。優しく包み込むように描く。女性らしい母性的な感性はこの人の武器だと思う。

ぼくとコロ助はラーメンがまずくて楽しくなかったけれど、ルリちゃんと恵太はラーメンがまずくて楽しそうだ。