『グランド・フィナーレ』阿部和重

グランド・フィナーレ

グランド・フィナーレ

第132回芥川賞受賞作。

ロリコン趣味が昂じて妻と娘と職を失った男が、二人の少女に出会って変わっていく。そんなお話。

感情の希薄な乾いた文体。アンダーグラウンドな雰囲気。この人の作風の独自性と文学的な才能はひしひしと感じるけど、この作品はちょっと中途半端な気がした。まず、ロリコンというのが、ひとつの重要なキーワードであるわけだが、その単語の持つ記号的なインパクトに頼っているだけで、実際的な描写はほとんどない。そのことが、男の得体の知れない気持ち悪さを強調している側面もあるが、僕としてはその心理や行為を生々しく掘り下げて欲しかった。そうすることで、ロリコンという現代的な特性を抱える男の異常性もしくはその中に存する普遍性を抽出できたと思う。そこが中途半端なので、主人公はただの気持ち悪いおじさんに堕ちてしまっている。また、自らの行いによって全てを失った主人公が、なけなしの私財をなげうって二人の少女の願いを叶える事で贖罪を果たそうとする構図は、お行儀が良すぎる。道徳的である必要性は無いのだから、最後に破綻なり抑えきれない欲望の発露なりを描いても良かったんじゃないかと思う。お情けの救済ではなく、人間の醜さ、後味の悪さを味わいたかったです。そちらのほうがこの作品にはしっくりくる気がする。ただ、そうすると芥川賞は取れなかっただろうけど。