『四十日と四十夜のメルヘン』青木淳悟

四十日と四十夜のメルヘン

四十日と四十夜のメルヘン

期待の俊英青木淳悟のデビュー作。二編収録。

・「四十日と四十夜のメルヘン」
主人公が何の変哲もないどうでもいいような日常をちらしの裏に日記として書き留めていく。また同時に、自作のメルヘンも綴っていく。やがて七月四日からの四日間がループし始め、その様はどうやら主人公が通う文芸教室の先生がかつて書いた小説と符合している。やがて、メルヘンと日記が混ざり合い、現実と虚構の境目が曖昧になっていくというなんとも形容しがたい小説。情報をパラノイアックに記載していく青木淳悟のカタログ的文体は、読むのに一抹のしんどさがあるのもまた事実。ただ、読み返すたびに新たな発見がある再読してこそ真価を発揮するタイプの小説なので出来れば繰り返し読みましょう。
・「クレーターのほとりで」
壮大な神話を思わせる序盤から、気づくと舞台は急に現代になって利権争いやらなんやらの非常にせせこましい話になってきたなと思ったら、最後は宇宙にまで話の射程が延びる。物語が膨張したり、伸縮したり、挙句の果てにラストにたまの歌詞が出てきたりと読者をあざ笑うかのようにあの手この手で徹底的に揺さぶってくる。筒井康隆三島賞で絶賛したのも頷ける。あのおじいちゃん大好物でしょ、こういうの。