『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

わたしを離さないで

わたしを離さないで

介護人キャシーがかつて生まれ育った施設へルーシャムでの生活や仲間達との交流を回想することで物語は進んでいく。そして、回想が進むにつれ、物語の驚くべき全貌が明らかになる。

全体の雰囲気だけでいうと「ガンスリンガーガール」が真っ先に頭に思い浮かんだ。閉鎖された施設の静謐さと絶望とは少し違う物悲しさはよく似ている。そして「ガンスリンガーガール」の彼女らと同様、この作品の子供達もある宿命を背負って暮らしている。その内容は作品の肝なのでここでは言わない。この秘密のおかげでSFにも分類しうるという何というか不思議な小説である。

作品のテーマとしては定められた運命のもと、人はいかに生きるかということだと思う。キャシーらは運命を変えようとして必死でもがく。しかし、運命は変えられないと知ったとき、彼らはそれぞれの決断を下し、運命を受け入れる。事実は変えられないが、考え方しだいで現実のあり方はいかようにも変容する。生きるということはどのように現実を捉えるかということでもある。

俗世間から隔離されているため、施設の子供たちは感情表現が直接的で、振幅が激しく、時としてエゴとエゴがぶつかり合い仲たがいする。その感情の動きが非常に上手く描けているところもこの作品の魅力である。