『妊娠カレンダー』小川洋子

妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)

第104回芥川賞受賞作。

小川洋子を知るためにはこの作品を読むのが一番手っ取り早いと思う。妊婦となった姉に対する生理的な嫌悪を感じる主人公の私。私は農薬に汚染されている可能性のあるアメリカ産のグレープフルーツジャムを、危ないかもしれないと思いながらも姉に食べさせ続ける。この不気味な怖さがあってこその小川洋子である。彼女の描く女性はワイドショーでよく見る嫁姑みたいに決して醜いんじゃないんだよね。ただただ怖い。不思議に引き寄せられる魅力を秘めた怖さだと思う。

女性の中に潜む母性に対しての異物感を書いた若き日の小川洋子が、いつのまにか母性を受け入れて「博士の愛した数式」を書く。その変遷を考えるとなかなか感慨深いものがある。女性にとって母性とは絶対に捨てることができない。全ての女性は女であると同時に母親でもあるということだろう。潜在的に。この頃の感性を尖らせていた小川洋子と今の丸みを帯びた感性の小川洋子。どっちも好きだ。