『夢の木坂分岐点』筒井康隆

夢の木坂分岐点 (新潮文庫)

夢の木坂分岐点 (新潮文庫)

第23回谷崎潤一郎賞受賞作。

こっちは読者を選びます。主人公は少しずつ名前が変化して行き、それぞれありえたであろう人生を平行的に体験する。そこに夢と虚構と現実すべてがないまぜになりながら摩訶不思議な混沌とした小説世界が形成されていく。さらにサイコパスと呼ばれる心理劇を通じて人間の深層心理を追求するという怒涛の文学実験の嵐。

筒井康隆が80年代、文学の最前線で一人だけ異次元の戦いを繰り広げていたことが伝わってくる。まるで日本刀でちゃんちゃんばらばらやっている中にロケットランチャーを抱えて乱入しているような観がある。文学賞の選考委員での活躍も含めてこの人の日本の文学に対する功績って大きいし、今の作家が文学で好き勝手できるのも筒井康隆が道を開拓して地ならししてくれたからこそである。文豪って言葉がぴったり当てはまる最後の作家だと個人的には思っている。

虚構にも夢にもすべて自己の無意識が投影されている以上、自分にとってそれは現実以上にすべてが可能的、萌芽的に発展して顕現した現実といえるではないか。