『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

2008年本屋大賞&第21回山本周五郎賞W受賞作品。

伊坂幸太郎といえば、どこに落としどころを持っていくかよく分からない状態の中で、いたるところにちりばめられた伏線が物語のラストにようやく収斂し、読者にそう来たかぁーと唸らせる作風が持ち味である。しかし、今作では最初に物語のおおよその筋道を読者に提示した上でそれに沿ってストーリーを進めていくというどっしり腰をすえた横綱相撲を取っている。変化球から直球へ。僕自身はこの作品よりも『オーデュボンの祈り』や『ラッシュライフ』のほうを評価しているが、経験を積んだ今だからこそ書けた作品であるし、その意味では作家として一枚皮がむけたと感じられた。

内容は巨大な謎の権力から首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃走劇で、そこからマスコミと群集心理の関係や管理社会の恐怖というテーマが窺えて『魔王』でも試みられた積極的に社会にコミットしようという姿勢が見られる。ただ『魔王』に感じられたエンタメに徹し切れていない中途半端さが払拭されて、周りは敵だらけの中でいかに逃げ切るかというエンタメとしての芯がしっかりしているので、結構な長編なのに一気に読ませられた。

けれどこれ、ほのぼのとした雰囲気の強い伊坂作品の中では、かなり重苦しい作品だった。ラストシーンもハッピーエンドに見えてこれバットエンドだよね?あの「よくできました」のはんこは、伊坂さんの中では綺麗に落ちをつけたつもりなのかもしれないけど、よくよく考えると結構残酷で後味が悪い。結果としては、最悪の事態を免れただけで根本的には何も解決していないわけだし。個人的には頓挫したテレビ中継での無罪を訴える演説のルートを採択して欲しかった。たとえ捕まったとしてもそちらのほうが救われた気がする。