『さよなら妖精』米澤穂信

さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア)

さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア)

入学以来仲の良いちょっと変わり者の美人の同級生、3年間打ち込んだ部活動の引退、ひょんなことから一緒に過ごすことになった異国からやってきた女の子、そして仲間達と共有した高校生活最後のひととき。これだけ、青春要素を注込みながら、まったく甘酸っぱくならず、ただただほろ苦いお話に仕上げてしまうのはいかにも米澤さんらしい。

主人公守屋の同級生太刀洗万智の設定からして流れるような黒髪、翳と険のある風貌、勝気な性格と明らかにツンデレヒロインっぽいのに、まったく生かそうとしない。万智の守屋への好意を匂わす描写はあるにはあるのだけれど、特に二人の仲を進展させるようなイベントか何かが用意されるわけではない。結局、彼女は最期までデレることもなく、ほろ苦すぎる衝撃のラストとともに物語は終わりを告げる。

この読者の期待通りには決して進もうとしない反骨精神もここまで徹底されると清清しい。ただ、正直、この作品をあまり賞賛することはできない。いくらメインじゃないとはいえミステリーの部分がいいかげんすぎるし、やっぱり主人公の斜に構えた態度が鼻に付く。けれど、心のどこかで僕が求めているものを提供してくれそうな気配が米澤穂信にはある。この作品も読了後に滓かなしかし、後に残る余韻を残していった。よし、他の作品も読もうっと。