『パンク侍、斬られて候』町田康

パンク侍、斬られて候

パンク侍、斬られて候

町田康のギャグがツボで読んでいて何回も爆笑しました。しかもただ笑えるだけじゃなく馬鹿馬鹿しさの中にも社会を批評する怜悧な視線が光っていて、今は亡き船場吉兆の没落を予見するような文章もあって驚いた。内容は時代劇なのだけど、登場人物が普通に現代のカタカナ語使ったり、思考プロセスが今風だったり、人語を解する猿が出てきたりとナンセンスな世界観がたまらなくいい味を出しています。

途中まで新興宗教団体「腹ふり党」を再興させるという目的のもとグダグダと進んでいく。ラスト付近で猿と新興宗教の狂信者たちの全面戦争に突入し、さらに幻想的な超常現象が発生して摩訶不思議な混沌世界が顕現し始めたあたりでこれ、どうやって収拾するつもりなんだろうと思っていたら伏線を回収しつつ綺麗にオチをつけていて笑った。そもそも町田作品で物語の畳み方や小説の筋とかを気にすることがおかしくて、そういう文法を無視したところにあるのが本来の町田作品である。それだけに、この作品は既存の小説のルールにちゃんと則っていて、これまでとは異なり、読者への歩み寄りが見て取れる。これが「告白」の前提になっているのは間違いなくて、その意味では重要な転換点になった作品。

「(略)こんな虚妄の世界でなんでそんな単純な因果に固執するのか、僕にはさっぱり分からない。どうせ無茶苦茶な世界なんだからそんなこと忘れて生きた方が楽だと思うけれど、君はなんでこんな世界でそんな因果にこだわるんだ。因果律といってその律のない世界なのに」
「むかつくからよ。それに……」
「それに?」
「こんな世界だからこそ絶対に譲れないことがあるのよ」