『東京島』桐野夏生
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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性欲に突き動かされる男たちが1人の女性を巡って醜く争うありさまが活写されていくのだが、桐野さんらしいのは、ただ1人の女性清子の年齢設定を40代にしたところ。これのおかげで、男になすがまま汚されるか弱い女性の悲劇ではなくて、島で唯一の女性という立場を利用して男をコントロールしてやろうと目論むなんともたくましい女性のお話になっている。男のほうもその年齢と弛みきった容姿に、女性には飢えているのだけれど躊躇もしてしまう微妙な心理的葛藤に置かれている。このように清子の絶妙な設定のおかげで物語が一筋縄ではいかないようになっていて、桐野さんお得意の思惑と猜疑心が入り混じるドロドロとした人間ドラマが繰り広げられることになる。
ただ、その極限状況下の本能むき出しの心理描写は流石にうまいのだけど、ストーリーのほうはご都合主義的で精彩を欠いていたように感じた。事件が起きてストーリーが進むのではなくてストーリーを展開させるために事件を起こしているような印象が拭えなかった。オチも取ってつけたような感じでちょっとなぁ。全体としてはいまいちの出来だった。