『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

実力の向上と経験の蓄積に比例して物語のスケールがどんどん肥大化していくのは小説家の性ですが、米澤さんが頑なに日常の謎と学園ものという限定された枠組みのなかに留まってくれているのはとても嬉しい。蓄えられた筆力を物語の拡張に使うのではなく、ひたすら物語の濃度を高めるのに傾けた結果、ライトでありながら後に残る作品に仕上がっています。

米澤さんの作品でこれまで引っ掛かりを感じていたのは女性の描き方で、安易な萌えに走らないのは好感が持てるのだけど、かといってリアリティーのある女性を描くわけでもなく、どっちつかずで決め手を欠いていたと思う。それだけに、今作品の主役の一人である小山内さんの人物造形が非常に良かった。小さくて、大人しくて存在感が希薄、だけど心には残酷な狼を飼っている。めちゃくちゃおっかないキャラなのに変に魅力的なんですよね。時折見せる暗黒面がたまらん。あと小山内さんと互恵関係を結んでいるパートナーの小鳩くんがいいように振り回されていて微笑ましい。ミステリーもしっかり決まっていて非常に良作でした。