『鹿男あをによし』万城目学

鹿男あをによし

鹿男あをによし

笑っちゃうぐらいベタでまっすぐな小説だった。そこは、万城目さんの長所でもあり、短所でもある。

おもしろいことは間違いない。ただ、それは読んでいて心地よいおもしろさであって、心の中の何かを刺激する類のおもしろさじゃないんだよなぁ。堀田イトが剣道部に急に入部して大会で勝ち進んでいくシーンもなかなか臨場感があって読ませるけど、読者の心の中では物語の進行上勝たせるだろうなっていう読みが働いてて実際そのとおり展開させてしまうところにこの人の甘さがある。主将が大会直前に怪我するエピソードなんて食パン咥えた転校生にぶつかるぐらいベタな話で意識的なパロディーかなんかじゃなきゃ普通絶対やらない。でも、ほんと安直にそんなエピソードを挿入するんだよねー。古代からの習俗を物語に絡めることで外見上は深みがあるように見えて、中身は底が浅くなってしまっているので、その脇の甘さをどうにかしないとこの先厳しい気がする。これは今まで読んだことのない部類の小説なのに散々読み飽きた小説でもある。月9でドラマ化されたのも意外なようでいて、なんか分かる。