『枯木灘』中上建次

枯木灘 (河出文庫 102A)

枯木灘 (河出文庫 102A)

中上建次の文章は媚びへつらいがなく非常に無愛想だ。読むのにとても骨が折れる。ただ、起伏なくたんたんと暴力と憎悪と入り組んだ血縁の呪いが身近にある異常な世界が綴られていくことにかえって鬼気迫るものが感じられる。そして、彼の文章には匂いがある。労働者の男臭い汗、草いきれ、日に照り付けられる土の匂い、血と精液の匂い。むせ返るような匂いをどうしたらここまで文章に封じ込められるのか。彼の文章を読むと中上建次という男の巨大さ(実際、巨躯の男であったわけだけど)を痛感させられる。