『グラスホッパー』伊坂幸太郎

グラスホッパー

グラスホッパー

殺し屋がたくさん出てくるお話。

正直、好き嫌いとか完成度でいったらうーんと唸ってしまう。ただ、この明快さを欠いたもどかしさというか、読了後消化できずに残っている感じは純文学を読んだときのそれだった。良くも悪くも伊坂作品の中では、エンタメの枠からの越境がもっとも果敢に試みられた作品だろう(最近はエンタメの方に回帰しつつあるが)。これを書いたことは、エンタメ小説家伊坂幸太郎の造反であって、amazonのレビューでは一様に読者の戸惑いが見て取れておもしろい。今作でもドストエフスキーの『罪と罰』を小道具のひとつにもってきたりと、本来純文志向の強い人ということを再確認した。殺し屋の一人の名前が槿(あさがお)なのも古井由吉から来てるんじゃないだろうか。ただ、問題はそちらの方向に行くことを必ずしも読者は望んでいないことで(伊坂さんの中ではかなりの会心作のはずだけど、ファンサイトの投票では下位になっている)、売れっ子作家といえど、いろいろ難しいんだなと思った。