『夕子ちゃんの近道』長嶋有

夕子ちゃんの近道

夕子ちゃんの近道

第一回大江健三郎賞受賞作。すごく良い小説でした。

フラココ屋というアンティークショップでバイトする30男と彼を取り巻く人々とのゆるゆるとした交流。それは、隣に住んでいる人の顔も名前も分からないのが当たり前の現代では珍しいぐらいのご近所づきあいなのだけど、フルネームも把握していなかったり、どういう経歴を辿ってきた人間かも分かってなかったり、踏み込みすぎない関係の間合いの取り方はなんとも現代的だ。田舎の息苦しささえ感じる偏執的な繋がりとは異なり、互いの生活と意志を尊重する関係性は確かに心地よく快適である。ただ、それは相手の心に深入りしすぎることを良しとしない、いつでも切れてしまう柔な関係で、もし誰かがいなくなっても3日もすれば初めからそこには誰も居なかったかのごとくそれまでと変わらない日常に復してしまうだろう。いうなれば、いつでも脱退入会可能なサークルのようなコミニティーだ。そこに、物悲しさと寂しさを感じるのもまた事実である。この作品では、繋がりが強調されればされるほど、反対に主人公の孤独が浮き彫りになっていく。非常に思いやりと優しさに満ち溢れ、ぽかぽかとあったかいお話なのに、読んでいると現代に生きることの絶対的な孤独を否応なく考えさせられてしまった。

寂しいのかもしれない。だけど大家さんがいうように「可哀相」なわけではない。親が性悪じゃなくても、飛び回っていなくても、寂しい人は最初からずっと寂しい。