『ヒトクイマジカル』西尾維新

ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹 (講談社ノベルス)

ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹 (講談社ノベルス)

戯言シリーズ第五弾。

西尾維新の作品って肉体関係を迫ったり、迫られたりするシーンが結構頻出する。なんらかの理由がつけられて常に未遂で終わるわけですが。これってどういう意図があんのかね。ライトノベルに関してはまったくの素人なので、詳しいことは分からないのだけど、ライトノベルの世界は直接的な性を排除した上に成立していると勝手に認識していたのですごい違和感がある。もちろん萌えと性欲が密接な関係にあるのは間違いないけど、そこに求められているのは性をオブラートに包んだ状態でしかない、せいぜいコスプレやパンチラとかのハプニング的なアレで、ここまで露骨に言及するのは珍しいんじゃないだろうか。そこには決してファンサービスの良心などではなく、むしろライトノベルのキャラクター性を踏まえたうえでの悪意みたいなものを感じた。自覚的にやっているとしたら、なかなか喰えないやつである、西尾維新。まあ、でもメタな話で言えばライトノベルの枠組みは絶対一線を越えないよう作用するから、そこを把握しているからこその挑発的な言動なのかも。もし一線を越えるのであれば、桜庭一樹『私の男』みたいに必然的に文学の領域に入らざるを得なくなるわけだけど、そこでやっていくだけの度胸と実力がないのをおそらく西尾自身が一番理解しているはず。だから、直接的な性をちらつかせながらも実際それ以上に関係を進展させることはしない。ポーズは見せながらも決して安全圏から出ていくことはしないのだ。ミステリーを捨てたことにも同じことが言えて、自分にできることとできないことの線引きに関しては、ドライな考え方の持ち主だと思う。そこが人気を得られた理由ではあるが、もちろん作家として致命的な欠陥であることは間違いない。たぶんこれの逆をやっているのが佐藤友哉で、だから彼の作品は売れないけど、可能性は感じるし、どちらかといえばそういう不器用な作家のほうを応援したい。