『神様のパズル』機本伸司

神様のパズル

神様のパズル

表紙だけ見ると、萌え系ライトノベル。しかし、中身はがちがちのハードSFだった。

テーマはずばり宇宙はつくれるのか。そう言われるとなんだか途方もなく壮大なイメージが膨らんでしまうが、内容自体は動きも少なく、非常に淡々と進んでいく。SF特有の宇宙人が出てくるとか、タイムスリップするとかの刺激的なギミックは用意されていない。かといって、SFのダイナミズムを欠いているわけではない。この作品のえらいところは、SFの魅力的なダイナミズムを、分かりやすい視覚的なインパクトではなくて、あくまで概念や理論にこだわり、それらが飛躍して宇宙の神秘に近づいていくスリリングさで表現しようとしたところだ。そのために、物理学の専門用語が頻出して、正直文系の私にはそれぞれの理論についてはちんぷんかんぷんだったのだが、それでもほんのちょっとしたことをきっかけに、世界の秘密を解明するようなアイデアが誕生する物理学の魅力は十分堪能できた。ただ、人間関係の淡白さや、大学生活後期のダウナーな雰囲気の描写が非常にリアリティがあって、リアリティがあるがゆえに作品自体も味気なくしてしまっているのはちょっと残念だった。エンタメなんだから、もうちょっと夢があってもいいじゃんって思った。

しかし考えてほしいのは“そんな馬鹿な”と言い切る根拠はいったい何かということなのだ。その根拠が馬鹿なものではないと断言できるのだろうか。十年後―いや、明日にでも、自分が根拠としていた世界観が馬鹿なものに成り果てている可能性を、誰も否定できないのである。物理学は、今まで何度そのような経験をしてきたことか。情けない気もするが、それが現代物理学の最先端なのだ。